時が経てば誰でも昔の記憶は薄れていくもの。さまざまな思い出で上書きされていく中でなぜか頭の中に残り続けている記憶もある。家族との旅行なんかはかなり残り続きやすくて深いことを考えることなく楽しんだ印象が強いんですが、大人になってふと思い出すと過去とは違う見えかたをする。
今作は思春期ど真ん中の女の子が離れて暮らす父親とトルコのリゾートに訪れる話。リゾート地で親子楽しい時間を過ごしビデオカメラにその姿を写した。周りから見たら仲のいい親子の楽しそうな旅行姿だ。
そんな楽しかった旅行の映像を20年経ったある日見てみると当時は子供すぎてわからなかった父の一面が見えてくる。といったストーリー。
みなさんも子供の時の思い出をふと思い出したり家族と話をした時に思いもよらなかった内容を聞いたり自分自身が思っていた内容とは違った解釈だったなんてこともあるかなと。
大人になってわかる“大人が持つ感情”を描いた今作。女の子は女性となり昔の父の姿に何を感じ何を思うのか…。どんな物語が親子の楽しい旅行に隠されていたのか!?
さっそくいってみよ〜〜〜٩( ᐛ )و
作品情報
『アフターサン』はシャーロット・ウェルズ監督の長編映画デビュー作品で、1990年代後半を舞台に当時11歳だった主人公の女の子が父親と夏休みをリゾートで過ごした様子を描いている作品。
製作は今年話題となったエブエブこと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のA24です。
本作は去年の5月から映画祭などで発表され、第95回アカデミー賞主演男優賞にノミネート。ナショナル・ボード・オブ・レビューで2022年最高の映画の一つに選ばれる。他にも第76回英国アカデミー賞(BAFTA)で作家、監督、プロデューサーなどの賞を受賞。
ノミネートは200を超えその中で70以上の賞を受賞し、日本より先に公開されている海外では数多くの評価を得て満を持して日本に上陸!さまざまな雑誌でも取り上げられNYタイムズ、ガーディアン、LAタイムズなどにも掲載され、監督の初長編作品としてはかなりの大ヒットとなりました。
子供だった少女が大人となり当時の父を大人の目線で見直す視点を綴る内容は私たちにどんなストーリーを見せてくれるのでしょうか!?
あらすじ
思春期真っただ中、11歳のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす若き父・カラム(ポール・メスカル)とトルコのひなびたリゾート地にやってきた。
輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする。
20年後、カラムと同じ歳になったソフィ(セリア・ロールソン・ホール)は、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出していく……。
キャスト<役名>
ポール・メスカル<カラム>
1996年、アイルランド出身。国立演劇学校リール・アカデミーを卒業直後、ダブリンの名門ゲート劇場で「グレート・ギャッツビー」の主役に選ばれる。
2020年1月、劇作家マーティン・マクドナーの「ウィー・トーマス」に主演し、高い評価を得る。サリー・ルーニーの小説を脚色したレニー・アブラハムソン監督の「ノーマル・ピープル」(20)で演じたコネル役で、2021年BAFTA賞テレビ部門の主演男優賞を受賞し、第72回プライムタイム・エミー賞のリミテッド・シリーズ部門、放送映画批評家協会賞で主演男優賞にノミネートされた。
最新の出演作はマギー・ギレンホールの監督デビュー作『ロスト・ドーター』(21)。若くして娘を持つ、繊細な父親を演じた本作で、2022年度のアカデミー賞主演男優賞候補に名を連ねた。
今後の待機作には、バンジャマン・ミルピエ監督のミュージカル『CARMEN』(22)、エミリー・ワトソンと共演するA24製作、アナ・ローズ・ホルマー&サエラ・デイヴィス監督の心理ドラマ『GOD’S CREATURES』(22) 、シアーシャ・ローナンと共演するガース・デイヴィス監督のSFスリラー『FOE』、ジョシュ・オコナーと共演するオリバー・ハーマナス監督による『THE HISTORY OF SOUND』 などがある。
また、リドリー・スコットが前作に続いて監督することで注目を集める『Gladiator 2』の主人公・ルキウス役に抜擢された。
フランキー・コリオ<ソフィ>
スコットランド・リビングストン出身。パフォーミングアーツとサッカーが大好き。『aftersun/アフターサン』(22) で俳優としてのプロデビューを果たす。
およそ半年にわたって行われたオーディションで、800人ものなかから、ソフィ役を射止めた。2023年夏には、2作目の長編映画、コーム・マッカーシー監督の『The Bagman』 に出演予定。
セリア・ロールソン・ホール<現在のソフィ>
振付師/映像作家。プロのダンサーとしてキャリアをスタートした後、映画やテレビの振付師に転身した。
最近では、『ポップスター』(18)、『アフター・ヤン』(21)、『バーズ・オブ・パラダイス』(21)などの振り付けを担当。
アリシア・キーズ、コールドプレイ、ブリーチャーズ、MGMTなどのアーティストのミュージックビデオの振り付けも行う。振り付けの経験をスクリーンに生かし、数々の短編映画や映像の脚本・監督も手がける。
長編デビュー作は、2015年にヴェネチア国際映画祭のプレミアを皮切りに、世界中の40以上の映画祭で上映され、数々の賞を受賞した『Ma』(15)。2015年の「フィルムメーカー・マガジン」で “25人の注目の新人”に選ばれる。サンダンス・インスティテュートのフィルム・トゥー・フェロー、シネリーチ・フェローであり、現在は2作目の長編映画を製作中。
※引用元:公式HPより
感想
見る人の数だけ感じ取れる感情があり、楽しそうなリゾート旅行の裏側でカラムが抱えている悩みが見える少し重めの作品。離れていても空はどこかにいるあなたと繋がっている(´ω`)
楽しい旅行と大人への成長
別れて暮らす父親・カラムと娘・ソフィが一夏の家族旅行をメインに描き、当時を写したビデオ映像を大人になったソフィが見て思い出す作品。カラムは年齢にしては若く見えソフィと歳の離れた兄弟のように見えるが父親で、職業やソフィと離れて暮らす理由などが語られず進行して行く特殊な構成となっていました。
久しぶりに会った娘と数日間のリゾート旅行。他愛もないひとときを過ごしながら楽しい旅の思い出をビデオカメラに残しながら過ごしていた。
作品の内容自体は11歳のソフィと父の旅行がメインでところどころにカメラで撮られた画質のカットが挿入され大人になったソフィは時間比としては全然。メインもソフィからの目線とカラムの目線が入れ替わりでその時の様子を映し出す。
ソフィ自身は普段会うことのできない父親と再会し夏休みを満喫できるのでまぁ楽しいこと楽しいこと。ただ楽しいんだけど年齢的に大人へと成長して行く年頃。同じ宿泊施設にいる同じ年頃の子や少し上の高校・大学生くらいの子に興味を示す。
カップルがキスをしたり男の子と体が触れてしまったりすることで“恋愛”を少しずつ知っていき自分自身もそういうことをしてみたいという感情が沸々と湧いてくる。
いろんなことが起きるんだけど自分の楽しい=父親も楽しんでいると思い無邪気に話題を振ったりカメラをまわすがカラムはそうではない。親子とはいえ性格的な違いもあるので合わない部分も出てくるしそれがあからさまに現れて2人に少し溝を作るのが「カラムが11歳の時の話」と「カラオケに勝手に応募をした」シーン。
娘が親の子供時代を知りたいと思うのは自然な感情だし日常会話で出てきてもおかしくはない。
だけどこの質問をカメラ片手に問うとカラムはカメラを止めるように促し、結局無理やり止めさせる。カメラには収めないが心に留めておくといい話を聞くんですがこれが思っていたよりも重たい内容。
この辺りからカラムが抱えている「黒いもの」が姿を表していきます。
カラオケのシーンでは「一緒に父の好きな歌を歌って思い出に残したい娘」と「人前で歌を披露したくはない父親」の心の乖離が起きてしまう。歌い終わった後カラムは部屋に戻ろうと言うがソフィはそれを拒否。一緒に歌を歌えなかった+歌い終わって戻ると下手くそだったと言われたことで拗ねてしまいます。
そこが思春期の反抗期だったのではないでしょうか。いつも早く寝るように言われベッドに向かうが1人で“大人の夜”を過ごす。お酒は飲まないものの年上のグループに混じったり、道に迷った時に再会した男の子とキスをしたり。
11歳の子供にとってはものすごく冒険をした1日だったんじゃないでしょうか?ずっと見ていた「好きな人とキス」をここで叶える。まぁ本当に好きなのかはわからないんですが冒険をする楽しさを知った日ですね。
誰しもそんな子供時代はあったんじゃないでしょうか。親の言うこと全てにイラッとしたり門限なんかがあったら「なんでうちだけ…」とか「そんなもん守れるか!」って遅くまで遊んだり。
そういうことをしないようにカラムもソフィに真面目に話をするシーンもあります。なんでも話すんだよとかタバコは体に悪いとか。彼自身タバコを吸っているんですが我が子にはそれをしてほしくはないってのがあるんで言ったのでしょう。
悩み事とかも相談してと言ってます。ちょうど男の子とキスをしたことを言った時にこれからできる彼氏のこととかドラッグをやったりしたこととか。
ソフィはやったことないと言いますがこれから体験する機会が来るかもしれないからと言います。家族だから話せないこともあるだろうけどなんでもいいから相談してほしいとカラムは言います。これも旅行という記憶に残りやすいタイミングで言われていたからソフィの中にも残り続けていたんでしょう。
カラムの気持ちは…
楽しい家族旅行が後半にかけて少しずつ見え方が変わっていきましたがカラムの心境というものはかなり複雑。
作品がカラムの抱えている悩みや苦しみについてはっきりとした表現がされていないため推測の域になりますが、おそらく鬱病などの精神性のものか癌といった肉体的なもののどちらかになります。
ソフィは早く大人になりたいという感情を持っていて、それに対比してカラムは30歳になるとは…と自身が大人になったことを驚いている発言が。このことからカラム自身は「自身で命を経とうと考えている」or「早くに亡くなってしまう病気」を持っていると考えられます。
大人になったソフィがビデオカメラの映像を見ているシーンもカラムが亡くなったことを思わせていますね。だって最後に撮られたソフィと別れるシーンではソフィが搭乗口に入って行くところをカラムが撮っておりカメラはカラムが持って帰ったから。
このことからソフィ自身にとっては久しぶりに会う父との楽しい旅行でしたが、カラムにとっては娘と過ごす最後の旅行だったわけです。
ただ病気が精神面のものか肉体面のものかは正直わからないんですよね(個人的に)。作中に出てくる会話がすごく上手く作られていて両方とも想像させるんですよね。
「タバコは体に悪い」とカラムはソフィに言うんですが「家で大人が吸っているから慣れている。」と返答。この会話でカラムがタバコ起因で癌を発症している可能性があるわけです。
そして彼はそこまで長生きする気がないんで仮に癌であってもタバコを吸い続けていることに違和感はない。
精神面は「なんでも相談するんだよ」のシーン。彼氏ができたらとかドラッグなんかをやってしまっても相談をしてと言ったのはカラム自信は誰かに悩みを吐き出せることができないことを描いていてソフィには捌け口を作っておくんだよと。
この構図を見せることで見た人がどっちとも捉えることができるわけです。これは作り込まれているなぁって思っちゃいましたね。 正直今書いたことも私自身がそう見えたってだけなので人によっては「えっ!?そうなの!?」って感じるでしょうがこう思っちゃった私はこの作品が評価されているのを感じてしまいました。
批評家でもないのに一端のことをいうなって感じですけどねww( ´∀`)
カラムは子供の頃からちゃんと扱われていなかったというのがわかりました。ソフィに 11歳の頃を聞かれたら急に感情を露わにしてソフィにイラつきます。
それでもソフィは質問を続けるんですよね。これは精神強すぎでしょww 子供だから察することができなかったのはあるかもしれませんが、このやりとりから内容を聞き出そうとできるのは鋼メンタルじゃね?!
でカラムが口にしたのは「親に誕生日を忘れられていた」というもの。こんなことされたら子供はショック受けちゃいますよね。
そんな経験をソフィに受けさせたくはないから当時の自分と同じ年となる11歳のタイミングで思い出を作ってあげたんじゃないでしょうか。
それのことを話したらソフィがツアー客にお願いして誕生日を祝うために歌ってもらい、こんなことをしてもらえたという感情(おそらく)でカラム号泣。子供の頃から自分の人生を碌なもんじゃないと思っていた彼にとっては相当嬉しかったんじゃないでしょうか。
最後に
最終的に何かしらの原因でカラムは亡くなってしまったと思われますが、その原因をソフィが作ってしまっていたとかだとかなり残酷。
思い出が詰まっており親子の楽しい旅行姿を映したあのカメラは亡くなった真相次第ですごく残酷なアイテムになってしまいます。
そう考えると最後の大人ソフィの表情が曇っているのも納得できるかな。途中で挟まれていた照明が点滅しているシーンはソフィの記憶が断片的にしか覚えていなかったということなんじゃないかな。
だからカラムが踊っているように見えていたのが悩んでいるような暗い表情になったりと変化してたのかなって。
そんな考察ができるのに作品自体にはカラムの死を描かずに曖昧なまま終わらせている。これは視聴側としては見たいんだろうけどそれを見せちゃうとめちゃくちゃ残酷な映画として終わってしまうのであえて描かなかったんじゃないかな。
いろんな考え方ができてさまざまな結論を人それぞれが出し満足できる作品というのが本作の基盤になっている気がします。
これを初長編映画で出してくるのは今後めちゃくちゃ期待できますよね!というかA24とこういった作風の映画が相性いいのでそれも相まってかな。
前に見た『WAVES/ウェイブス』も印象的だったし、『エブエブ』もよかったしA24の力もかなりいいなぁ。もう好きだわ( ^ω^ )
ただ初回ではわかりにくいってのがあるのでそこはハードル高いかな。私は全然気になりませんが普段から映画見る人と見ない人でも感じ方違いますからね!
ってなわけでまた次回 ´ω`)ノアリャシタ
評価 ☆☆☆☆☆5/5